開発秘話その3 悪夢の底なし沼
こんにちは
株式会社浅野屋代表の岸です
今回は希望に燃えて
工場を作った頃のお話をしていきます
どうぞよろしくお願いいたします
いよいよ動き出した
XENOの開発プロジェクト
2012年の春から本格化して
GWには試作一号をお客さまに
ご覧いただく予定でしたが……
もう……
なにからなにまで
すべてが上手くいきませんでした
上手くいかないというか
考えてやったことすべてが裏目に出ました
細かすぎる内容になるので
すべてを書くことはしませんが
もっとも私を悩ませたのは
金型の素材をアルミにしたこと
もちろん
理由はあります
コストです
一般に金型の材料としては工具鋼と呼ばれる
強度や耐摩耗性に優れたスチール(鋼)が使われます
けれどこれ相当にお高いのです
たくさんの個数を打つなら
採算ラインにも載ってくるのでしょうが
XENOの場合は1モデル300本しか打ちません
しかも
3モデルを同時にリリースする計画だったので
なにか知恵を絞らないと
製造コストが青天井になってしまいます
ここで
前回登場した金型屋さん
それなら外枠をスチールで作って
それぞれのモデルの金型はアルミでつくり
はめかえる方式でいきましょう!300本くらいならアルミで十分持ちますし
コストもグンとさがりますよ!!!
と
これ以上ない嬉しいご提案
提示してもらった見積書にも
魅力的な価格が書き込まれており
私はその場で発注書を書いたのです
ところが……
金型が上がり
実際に射出成型をしてみると……
ヒケ(材料が全体に回らずエクボができてしまうこと)はでるわ
くすみ(靄がかかったような変な色になってしまうこと)はでるわ
クオリティが全然ダメ
売りモノになど
てんでならないレベルでダメ
なんとかならないか
件の金型屋さんに相談すると
アルミ型なので限界ありますね
しかも原価ギリギリでやっていますので
修正には追加で費用が必要になります
という
おいおい!それはねぇだろう!な
まさかの返答
しかし
背に腹は変えられないので
修正の見積もりを依頼すると……
なんだよ、これ!な
目の球が飛び出る金額!!!
いやいやいやいや金型屋さん
こんな金額払うなら
最初からアルミ型にしない方が良かったし
そこは金型のプロとして
アドバイスをして欲しかった
と切々と伝えたところ
アセチなんて使ったことない材料だから
わからなくて当然ですよ!
と逆ギレされる始末
なんというか……
いやけれど
選んだのは私ですから
仕方なく
自分たちの力で
この問題を解決するべく
高校の友人を頼って電話
すると
昔の繋がりとは
有り難いものです
すぐさま彼は来てくれ
相談にものってくれ
なんとか
80%の合格点にまで仕上げることができました
よしこれで
なんとかなりそうだ
と息をついたのも束の間
テンプル(耳にかける部分)の成型に移ると
さらに大きな問題が勃発したのです
それは
鬼のような不良率
眼鏡のテンプルには
芯金と言われる金属が入っています
以下の写真のような
顔に合わせたフィッティングを
しっかりキープしておくためのものです
細かすぎる説明は省きますが
この芯金を入れる仕組みは
従来の射出成型にはなく
なんとか知恵を絞って考えたものの
成型した半数が使いものにならないのです(大泣)
成型しても成型しても
半分は不良品
当然不良品は捨てるので
原価はその分かさみます
なにより
徒労感が半端なく
慣れない工場仕事と
一体最終的にいくらかかるのかの不安で
私は実際に泣いていましたし
ストレスで精神がおかしくなりそうでした
けれど
ここが底ではなく
さらに深い穴が
待っていたのです
数々の至難を
泣きながらなんとか乗り切り
最終組上げ一歩手前の磨きに入ったら……
磨けないのです
デザインを複雑にしてしまったせいで
人の手では磨き不可能な箇所が
いくつもできてしまったのです
それでも磨かないと商品として
販売できるクオリティにならないので
無理矢理リューターを突っ込んで
無理矢理磨いて……
何回も何台も
リューター壊しました
磨きを担当していたスタッフが
神経症になりました
そんな中
朝も夜もなく
磨きに明け暮れ
本当に心が折れそうでした
が
ここさえ乗り切れば
XENOを送り出せる!
との希望だけを見つめ
最後の力を振り絞って
前へ徒歩を進めました
ところが
まだここは
底ではありませんでした
磨きを終え
フロントとテンプルを繋ぐための
丁番という金具を取りつけようとしたら
取りつけるために
100万円近くを投入して買った機械が
役に立たないことが分かったのです
機械と丁番に使った金属の相性が
最悪に良くなかったのです
そして
ここを修正するためには
新たな投資が必要なこともわかりました
なんだよもう!
関係者全員が敵か?
破滅へと導く悪魔か?
そうか!
呪いか!
これは呪いなのか!
私にあきらめろと
なんなら滅びろと言っているのか?
この時点で
私の思考は
完全に暗黒に落ちました
知らぬ間に
頬を涙が伝っていました
けど
XENOはなんとか形にしたい
なんとか世に出したい
その想いと執念が
ギリギリのほんの少し
暗黒を上回りました
だから
初のXENOシリーズとして
鱗蛇(リンダ)
銅磨(ドウマ)
鎧羅(ガイラ)
の3モデルを
生み出すことができました
そして2012年12月
私たちは
発表の日を迎えるのです
(続く)